会計・税務

【少額の固定資産購入時に要チェック】#1:少額減価償却資産

本記事ではわかりやすさ、簡潔さを重視するため、法令等と異なる用語の使用、詳細な規定の内容の記載及び説明を省略している場合があります。
また、本記事の記載に基づく行動の結果、損失を被ったとしても一切の責任を負担することはできません。

少額減価償却資産(中小企業者の特例)とは?

この制度は、中小企業や個人事業主が10万円~30万円未満の減価償却資産を取得し使用開始した場合、取得価額相当額を使用開始した事業年度の費用として計上できる制度です。

この制度を適用すると、適用しない場合よりも費用計上額が増加するため、適用した事業年度では法人税や所得税を少し減らすことができます。

【少額減価償却資産(中小企業者の特例)のまとめ】
※マインドマップ形式で制度の内容を簡単にまとめたものです。

そもそも減価償却固定資産とは?

「30万円未満の固定資産を購入したとき」とはいうものの、そもそも固定資産ってなんでしょうか。

「固定資産」という名前から、例えば、工場、機械、車など、長い間使えそうなものをイメージしませんか?
もちろん、これらは「固定資産」に含まれます。

でも、実際には長い間使えそうかどうかというイメージで、固定資産かどうかを決定するわけではありません。

購入額が10万円以上かどうか

これが固定資産かどうかの基本的な判断基準です。

(※使用可能が1年未満か否かの判断基準もありますが、その判断基準を使うことはそれほどありません。)

固定資産かどうかって大事なの?

「固定資産であるかどうか」、これは税金を計算するにあたって、とても重要です。

なぜなら、通常、固定資産は購入したときにその全額を経費にすることができないからです。

でも、ある程度利益が出ていて、税金を少しでも減らしたい時には、なるべく経費は増やしたいもの。

そんな時には、その年に購入した固定資産を見返してみましょう。

「少額減価償却資産」の制度を使って、経費を増やし税金を減らすことが出来るものがあるかもしれません。

【補足】固定資産の経費計上について
固定資産は何年も長い期間使うことができるので、使用する期間に渡り、少しずつ経費にします。
(これを「減価償却」といいます。)

「使用する期間」は、資産ごとに定められています。
(これを「耐用年数」といいます。)

例えば、「20万円」の固定資産を購入し、耐用年数が「5年」であれば、以下のような形で経費(減価償却費)にします。

・1年目:経費4万円
・2年目:経費4万円
・3年目:経費4万円
・4年目:経費4万円
・5年目:経費4万円
 合計:20万円

1年目を見てみると、経費は「4万円」です。

一方、「少額減価償却資産」を適用した場合には、1年目の経費は「20万円」になります。

1年目の経費の差額は16万円ですね。

税率が30%とすれば、1年目の税金に与える影響はなんと「4.8万円」です。
(16万円×税率30%=4.8万円)

「少額減価償却資産」の制度を知っていて、その制度を適用さえすれば、1年目の税金を「4.8万円」も少なくすることができるということです。

※「少額減価償却資産」制度を適用した場合には、2年目以降に経費に計上される金額はありません。

少額減価償却資産の制度は注意点もある

良いことばかりに見える「少額減価償却資産」の制度ですが、注意点もあります。
主な注意点は以下の通りです。

①複数年で考えれば納税額が減るわけではない

通常の固定資産は減価償却費として複数年に渡って経費とすべきところ、少額減価償却資産の制度を適用すれば、30万円未満の少額な固定資産は、購入した年に一気に経費にすることが可能となります。

この制度を適用して購入した年に一気に経費にした場合でも、通常の固定資産として減価償却費により複数年で少しずつ経費にした場合でも、複数年を通算すれば、経費となる金額は同じです。

例えば、
・購入金額20万円
・耐用年数5年

上記のような固定資産を購入した場合、購入した年に一気に20万円を経費にしても、毎年4万円ずつ5年間に渡り経費(減価償却費)にしても、5年間で経費となる金額は20万円なので、経費となる金額は同じです。

そのため、税金に与える影響も5年間で考えれば同じになります。

(※厳密にいえば、その5年間の中で税率が変われば、税金に与える影響は変化します。)

あくまで"目先の"税金を減らすための制度と考えるのが良いかと思います。

②適用資産は、償却資産税の対象になる

「少額減価償却資産」の制度を適用した資産がある場合、その資産は法人税や所得税とは全く別の「償却資産税」という税金の対象となってしまいます。

償却資産税の対象になった場合、その対象資産の評価額の1.4%(償却資産税の税率)の税金が課されます。
すなわち、償却資産税の納税額は増えてしまいます。

例えば、
償却資産税の課税対象資産の評価額が20万円なら、2,800円の税金が増加となります。
(評価額20万円×償却資産税率1.4%=2,800円)

なお、「少額減価償却資産」の制度を適用しない場合でも、通常の固定資産とする場合には償却資産税の対象になりますので、上記と同様に償却資産税がかかります。

別の記事で紹介する、「一括償却資産」の制度(20万円未満の固定資産に適用可能な制度)を適用すれば、同じ資産でも償却資産税の対象にはなりません。

ホント、複雑でイヤになっちゃいます。
ともあれ、少しでも税額を気にされる方には要注意です。

③年間に合計300万円までが限度

「少額減価償却資産」の制度を適用すれば、30万円未満の固定資産は、一気に購入した年の経費とすることができます。

しかし、30万円未満の固定資産なら無限に経費にできるわけではありません。
年間300万円までが上限になります。

例えば、
1個29万円の固定資産を100個購入したからといって、2900万円を全てその年の経費にできるわけではありません。

この場合、以下のように扱います。
・10個(290万円分):全額をその年の経費にすることができる
・残り90個分:全額をその年の経費にすることはできない

「残り90個分」はどうするのかというと、通常の固定資産と同様に耐用年数に渡って減価償却費として少しずつ経費としていくことになります。

あくまで少額減価償却資産の制度が適用可能なのは、年間300万円までが上限ですのでご注意ください。

④対象となる事業者が決まっている

この制度は、対象事業者を中小企業者、個人事業主に限定した特例の制度です。
そのため、対象となる事業者の要件が決まっています。

【対象事業者の主な要件】
・資本金が1億円以下
・従業員が500名以下
・大企業の子会社ではない
・確定申告が青色申告で行われている
※法人のみでなく、個人事業主の方も適用可

青色申告をしている中小企業や個人事業主の方であれば、大抵は対象になるイメージです。

⑤30万円未満かどうかの判定は、経理方法による

「30万円未満かどうか」に判定が必要なのか、と思われるかもしれません。

購入金額が30万円未満かどうか、ただそれだけのことでは??と思いますよね。
その通りです、ただそれだけのことです。

でも、それが意外と難しいです。

主に以下の2つの場合に、30万円未満かどうかの判定に迷うことになるかと思います。

税込金額か、税抜金額か

30万円未満かどうかの判定は、「消費税込みの金額」、「消費税抜きの金額」、どちらで判断するのでしょうか。

例えば、
税抜290,000円、税込319,000円の固定資産を購入したとします。

・税抜290,000円で判定なら:30万円未満 ⇒ 適用可能
・税込319,000円で判定なら:30万円を超える ⇒ 適用不可

という判定となります。

税抜・税込の判定方法としては、その事業者が採用している消費税の経理方法に合わせて判定することになります。

・税抜経理を採用していたら

税抜経理を採用しているなら、上記例では税抜金額290,000円に基づいて、30万円未満かどうかの判定をします。

・税込経理を採用していたら

税込経理を採用しているなら、上記例では税抜金額319,000円に基づいて、30万円未満かどうかの判定をします。

ということは、上記例の場合には、税込経理では少額減価償却資産の制度を適用できないことになります。

このように、場合によっては同じモノを購入しているのに、どちらの経理方法を採用しているかによって、少額減価償却資産の制度の適用可否が変わってしまいますので、要注意です。
(この場合は税抜経理を採用している方が、お得ですね。)

セットで購入した場合

購入額が30万円未満かどうかで判定は、「通常1単位として取引される1単位ごとの金額」で判定すると表現されています。

簡単にいえば、1個当たり30万円未満ならOKということです。

ただし、ここにも注意点があります。

例えば、応接セットのような場合です。

応接セットは複数のイスやテーブルがセットで売られているため、30万円未満かどうかの判定は、個々のイス等で行うべきか、応接セット全体で行うのか、悩ましいところです。

これの結論としては、「応接セット全体の金額」で判定を行うことになります。

なぜなら、応接セットは、セットとなっているイス等が全体で応接セットとしての機能を発揮するので、応接セットが「通常取引される1単位」は、応接セット1つだからです。

応接セットの場合だけの例外ではありません。
セットで販売されるようなものは、このように判定を行うことになります。

以上のような例外もありますが、基本的には1個当たりの金額で判断すればOKです。

最後に

30万円未満の固定資産を購入したら、全額を経費にできる制度がある

これだけのシンプルな制度ですが、実際に細かく見ていくと、実は奥が深いです。

実際の税務でもよく利用する制度です。

中小企業経営者の方や、個人事業主の方は、覚えておいて損は無いかと思います。
(特にご自身で申告をされている方)

似たような制度として20万円未満の固定資産を購入した時に適用可能な「一括償却資産」の制度もあります。
「一括償却資産」の制度については、下記記事をご覧ください。

【少額の固定資産購入時に要チェック】#2:一括償却資産


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